眼瞼下垂の原因である「重症筋無力症」とは?
全身の筋肉が弱くなる病気
まぶたが開きにくくなる眼瞼下垂。眼瞼下垂には先天性、そして後天性のものがありますが、実は意外な病気が潜んでいる可能性があります。それは、全身の筋肉が弱くなる「重症筋無力症」です。重症筋無力症の自覚症状に多いのが眼瞼下垂と言われ、進行度合いによっては呼吸困難や構音障害などが見られる場合も。ここでは、重症筋無力症の症状や眼瞼下垂との関係、眼瞼下垂以外に見られる症状、また重症筋無力症の診断方法や治療法について詳しくご紹介します。
重症筋無力症とは
重症筋無力症とは、筋力が弱くなる病気です。重症筋無力症の人は、手足を少し動かすだけで疲れてしまうことも。何度も同じ筋肉を使うと、次第に力が入らなくなるのが特徴です。 症状が出る部位は人によってさまざま。心臓や腸など、自分の意志で動かすことができない筋肉は侵されず、手や足、顔など意志で動かすことができる筋肉に症状が現れます。
重症筋無力症がなぜ発症するか
重症筋無力症は、免疫が異常な働きをすることで発症します。筋肉を動かそうとすると、神経からアセチルコリンという物質が放出されます。通常は筋肉がアセチルコリンを受け取ることで指令が伝わり、筋肉を動かすことができるのです。
重症筋無力症では、このアセチルコリンを受け取る部分に結合する抗体ができてしまい、筋肉がアセチルコリンを受け取れなくなります。そのため、神経からの指令が筋肉にうまく伝わらず、疲れやすい、筋肉を動かしにくいといった症状が現れます。
重症筋無力症の患者数
2006年に行なわれた全国臨床疫学調査によると、日本で重症筋無力症を発症している人は現時点で約1.5万人。男女比は1:1.7で女性の方が多いようです。患者数は年々増えており、現在では2万人を超えていると言われています。
重症筋無力症の症状と眼瞼下垂の関係
重症筋無力症で眼の周りの筋肉が弱る、まぶたが垂れ下がる眼瞼下垂の症状が現れます。2003年に日本免疫学会と日本神経治療学会から公表された重症筋無力症の治療ガイドラインによると、重症筋無力症の初期症状として、眼瞼下垂や眼球運動の障害、それにともない物が二重に見える複視が起こることが多いようです。
【参考】
重症筋無力症の眼瞼下垂以外の症状とは
重症筋無力症は段階に応じてさまざまな自覚症状や身体所見が見られます。最も多い自覚症状・身体所見は眼瞼下垂ですが、次いで頻度が高いのは頚部四股筋力の低下(初発時23.1%、診断時44.1%)です。また、構音障害、咀嚼障害などの球症状、顔面の筋力低下、呼吸困難などの症状も見られ、症状の日内変動(夕方より朝が軽い)や日差変動が見られるのも重症筋無力症の大きな特徴といえます。
重症筋無力症で侵される筋肉別に、症状を記載しました。当てはまる症状がある方は、早めに医師に相談しましょう。
眼の周りの筋肉 | 眼瞼下垂、斜視が現れる、物が二重に見える(複視) シャンプーが目に入りやすくなった、ピントを合わせづらい、まぶしい(瞳孔症状) |
口の周りの筋肉 | 物を噛むとすぐに疲れる、飲みこみづらい、つばが口からあふれる むせることが増えた、しゃべりにくい |
顔の筋肉 | 表情がぎこちない |
手足の筋肉 | よく物を落とす、字を書くのがつらい、洗濯ものが干せない 階段が昇れない、おふろで頭が洗えない |
呼吸筋 | 息苦しさがある |
【参考】
重症筋無力症の診断法とは
重症筋無力症の診断は、判断基準に基づいて行われます。なかでも、眼筋麻痺や四股筋力の低下、呼吸障害をきたす疾患は全て鑑別の対象となり、自覚症状・身体所見・検査所見の1つ以上が陽性の場合は確実であると診断されます。一方で、耳鼻咽喉科的所見による音声学的診断法が行われている機関もあります。言語障害や構音障害が見られる場合も、速やかに医師の診察を受けましょう。
【参考】
重症筋無力症の治療法について
重症筋無力症の治療は、内服薬による対症薬物治療、長期的病態改善治療、短期的病態改善治療の3つに分類されます。内服薬による対症薬物治療には抗コリンエステラーゼ薬が用いられ、神経筋接合部のアセチルコリンを増加させることで筋肉への刺激伝達を改善します。長期的病態改善治療には胸腺摘除術やステロイド剤の内服、免疫抑制薬が用いられ、重症筋無力症の免疫異常を長期的に改善。そして短期的病態改善治療には免疫グロブリン療法や血液浄化療法が行われます。特に、短期的病態改善治療は全身の症状が重い場合や、症状が急激に悪化した場合に行われる治療法です。
【参考】
重症筋無力症の予後
重症筋無力症は、免疫の異常により症状が現れる自己免疫疾患。厚生労働省より難病指定されています。近年では免疫療法が確立されたことにより、仕事や生活に支障がないレベルまで改善させられるケースが増えました。
合併症が重くなると治療が難しくなるため、早めに医師に相談しましょう。
眼瞼下垂の原因は重症筋無力症の可能性が
重症筋無力症の主な症状は眼瞼下垂です。眼瞼下垂は整形手術によって解消することができますが、まぶたが開きにくくなるなど眼瞼下垂の症状が見られたら重症筋無力症の可能性があることも疑い、医師の診断を受けましょう。特に、日本での重症筋無力症患者は年々増加傾向にあります。そして、重症筋無力症に見られる症状は、眼瞼下垂以外にも呼吸困難や咀嚼障害、構音障害などさまざまな症状が見られます。もしも重症筋無力症と診断された場合は、症状の進行具合によって治療法も異なるため、眼瞼下垂以外にも体の不調を自覚した際は医療機関を受診するようにしましょう。