挙筋前転法
SURGERY切る眼瞼下垂手術・挙筋前転法とは
まぶたを開く眼瞼挙筋が弱っている、1回の手術でしっかりと効果を出したいといった場合は、皮膚を切る眼瞼下垂手術がおすすめです。手術法のひとつである挙筋前転法は、形成外科で一般的に用いられている方法。まぶたのたるみを除去し、パッチリとした明るい印象の目をつくることができます。ここでは、そんな挙筋前転法で得られる効果、メリット・デメリット、術後の注意点などについてまとめています。
挙筋前転法の施術方法
前転挙筋法は、腱膜性の眼瞼下垂の一般的な手術法です。後天性の眼瞼下垂(加齢・ハードコンタクトの長期利用などが原因)だけでなく、先天性の眼瞼下垂のうち、筋肉がある程度良好に動く場合にも用いられます(軽症~重症まで幅広く適応)。
施術方法は、まず上まぶたの皮膚(二重まぶたのライン)を切開。ゆるんでしまった眼瞼挙筋と腱膜を再び固定させ、眼瞼下垂を改善していきます。眼瞼下垂の治療と同時に、皮膚のたるみ・余分な脂肪を除去することも可能です。
まぶたの裏にあるミューラー筋を傷つけずに症状を改善できる方法ですが、医師の高いスキルが必要な手術です。
挙筋前転法がミュラー筋を傷つけずに済むというのは、目の周囲の筋肉を切除することがないためです。
挙筋前転法では、ゆるみが発生した眼瞼挙筋と腱膜を切除せず、折りたたむように前転させながら短くします。そして、短くした状態のまま瞼板に固定をするため、眼瞼挙筋と腱膜のゆるみを改善することが出来るのです[1][2]。
眼瞼下垂の治療法として「挙筋短縮術」という術式がありますが、これは腱膜やミュラー筋を切除して物理的に短くすることで、まぶたの開きを改善する方法です[3]。ミュラー筋は交感神経の機能に影響を与えている筋肉なので、損傷させることによって頭痛や肩こりなどの症状が悪化する可能性があると考えられています[4]。
それに対して挙筋前転法は、筋肉を傷つけずに手術ができるため、交感神経の損傷による不快な症状を発生させる可能性の低い安全な術式です。
挙筋前転法の種類について
挙筋前転法には2種類があり、これまでご紹介してきた方法以外に、結膜の切開をする方法もあります。
・まぶた表面の切開をする場合
軽度から重度の眼瞼下垂に適用される方法で、まぶたの表面を直接切開し、瞼板と腱膜の固定をする方法です。まぶたの表面から切開を行うため多少の傷跡が残りますが、同時に余っている皮膚を切り取ることができるため、よりぱっちりとした目になることができます[5]。皮膚を切開するためダウンタイムは長めとなりますが、ミュラー筋を傷つけることがないので安全です[1]。
・結膜切開をする場合
軽度から中度の眼瞼下垂に適用される方法で、まぶたの裏側にある結膜部分を切開して、瞼板と腱膜の固定をする方法です[5]。結膜の切開なので皮膚の表面に傷跡が残りませんが、余っている皮膚を除去することはできません。また、人間の体の構造上、結膜からの切開ではミュラー筋に傷がついてしまうリスクや、眼球を傷つけてしまうリスクもあるため、多くのクリニックでは採用されていない方法です[1][6]。
このように挙筋前転法には2種類があり、両方の術式に対応している場合は、眼瞼下垂や目の周囲の皮膚状態によって選択される術式が変化します。ですが、皮膚表面を切開する方法の方が安全性も高く、目元のたるみをなくした美しい目元を実現できるはずです。
[1]参考:水の森美容外科『眼瞼下垂の手術には、挙筋短縮法、挙筋前転法、経皮法、経結膜法などいろいろありますが、違いは何でしょうか?』
[2]参考:横浜桜木町眼科『眼瞼下垂手術の術式と手術例』
[3]参考:酒井形成外科『挙筋腱膜短縮手術(眼瞼下垂・パッチリ目)』
[4]参考:信州医学会『(PDF)新たなる疾患概念「眼瞼挙筋腱膜すべり症」』
[5]参考:城本クリニック『眼瞼下垂』
施術の効果
挙筋前転法で治療を行うと、まぶたの開きが良くなり、黒目がハッキリと見えるようになります。まぶたが下がることで、どんよりとしたイメージになりやすい眼瞼下垂ですが、目元がパッチリとしてイキイキとした印象になれるのです。また、まぶたを適切な位置で固定できるため、後戻りがないのも特徴です。
その他、まぶたのたるみによる偏頭痛・肩こり・眼精疲労・不定愁訴などを解消する効果も期待できます。見た目が若々しくなることで、アンチエイジング効果を実感できることも。
手術前の注意事項
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- 失敗する確率が高い?
- 挙筋前転法は、教科書にも掲載されているほどポピュラーな手術法です。一定の技術力を持つ医師であれば問題なく施術できますが、経験が足りなくて症状を正確に診断できていない・医師のスキルが低いといった場合は、失敗する可能性が高くなります。失敗すると、まぶたが完全に閉じない、目の大きさに左右差が出るなどのトラブルが起こることもあるようです。
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- かならず二重になる?
- 挙筋前転法は、二重まぶたのラインを切開して行う手術法。そのため、眼瞼下垂の治療とともに、二重まぶたを形成することができます。「二重まぶたにはなりたくない」という場合は、奥二重になるように調整することもできます。
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- 1回の施術で終わる?
- 挙筋前転法の施術地時間は、1時間前後。経験豊富な医師であれば、1回の施術で眼瞼下垂を改善することができます。ただし、糸を使った方法と違って元に戻すことができないため、失敗すると再手術・修正が困難。最初の医師選びが重要です。
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- 保険適用は可能?
- クリニックや眼瞼下垂の症状によっては、保険が適用されます。適用条件はクリニックによって異なることがあるため、いくつかのクリニックでカウンセリングを受けてみると良いでしょう。
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- 保険適応になる場合とは?
- 眼瞼下垂で保険が適用されるのは、眼瞼下垂によって目の機能に障害がある場合です。したがって、目を大きく見せたい、ぱっちりとさせたい、という目的で行う手術は保険適応外となります。保険適応外の治療は「目元を美しく見せる」ことが目的になるため、仕上がりの美しさに違いがあるかもしれません。
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- 視力に問題が起きる可能性は?
- 視力を調整している神経は「視神経」という目の裏側にある神経なので、眼瞼下垂の手術が視力に影響を及ぼすことはありません。眼瞼下垂の手術は、瞼の表面のみに治療を施す手術なので、眼球表面に傷がつくなどの心配も無用です。
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- 眼瞼下垂が再発することはある?
- 眼瞼下垂の原因として「加齢による目の開きの悪さ」が挙げられるので、手術をした時点から、年齢とともに少しずつ進行する可能性はあります。ですが、症状の進行は非常に遅いので、再手術をしなければならないとしても数十年後になると思われます。
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- 他の目の手術と同時に行える?
- 眼瞼下垂の手術と併せて、目頭切開、目尻切開、たれ目形成術などの手術を同時に行うことができます。また、埋没法などで二重の幅を広く調整することも可能です。
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- 腫れがひどくて人に会えない?
- 手術から1~2週間程度は腫れがありますが、メイクで隠せる程度なので人に会えないということはないでしょう。1ヵ月後には約90%の完成度となるので、メイクをしなくても気にならない状態にまで回復します。
メリット・デメリット
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メリット
- 臨床結果が十分にある
- すでに数多くの形成外科・美容外科で行われている方法であり、その臨床結果も十分にあります。
- 筋肉に傷をつけない
- 皮膚の切開を伴う手術ですが、まぶたを持ち上げる筋肉・腱膜・ミューラー筋には一切傷をつけません。
- 同時に二重にできる
- 眼瞼下垂の改善と同時に、二重まぶたの形成も可能。傷跡が目立ちにくいのもメリットです。
- 腫れを最小限に抑えられる
- 筋肉などの組織を傷つけないため、腫れは最小限に抑えられます。体への負担が少なく、回復も早い手術法です。
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デメリット
- 医師の技術力で仕上がりに差が出る
- 眼瞼下垂手術の中でも難しい部類に入り、医師のスキルによって仕上がりや効果の持続性、ダウンタイムに大きな差が出ます。
- 医師が手術方法を正しく理解していないことがある
- 医学のテキストにも載っている一般的な術式であるため、授業で習っただけの知識で施術を行っている医師もいます。
- 皮膚を過剰に切除
- 技術力が低い医師が施術を行うと、皮膚を切除しすぎて目の大きさがアンバランスになってしまうことがあります。
おおよその手術費用
挙筋前転法の費用には、保険診療と自費診療があります。保険適用の場合は、3割負担で4~8万円ほど。自費診療の場合は、50~70万円ほどとなります。どちらも術式は基本的に同じものとなりますが、自費診療では、二重のラインを細かく調整するなどの要望を聞き入れてもらえるのがメリット。保険診療は機能の回復をメインとしているため、見た目のデザインは二の次となることがあります。
ダウンタイムについて
挙筋前転法では、多くの場合で術後に腫れや内出血などが見られます。
強い腫れのピークは術後2~3日で、2週間ほど腫れが続くのが特徴。抜糸は1週間くらいでできますが、むくんだ感じが2ヶ月くらい続くこともあるようです。ある程度はメイクでカバーできますが、アイメイクができるのは抜糸後になります。
ちなみに、手術は日帰りで行えますが、皮膚を切開するためサングラスを用意しておくのが得策。洗顔・シャワーは翌日からOKですが、入浴は1週間後くらいからになります。また、腫れや内出血がひどくなる恐れがあるため、飲酒や激しい運動は1週間ほど控えましょう。
施術後のスケジュール
挙筋前転法の手術を受けた場合、基本的には翌日~翌々日に、消毒や術後の状態を見るために受診する必要があります。問題がなければ、術後1週間で抜糸となります。ただし、抜糸をしたら完成というワケではないので、定期検診を受ける必要アリ(1ヶ月後・3ヶ月後くらい)。術後の経過で不安やトラブルが発生した場合は、放置せずにすぐクリニックに相談するようにしましょう。